「たぶん、これを書いたのは…トニーさんです。」
「ええぇーっ!?」
(トニーが!?)
助六の口から出された名前は、まったく予想していないものだった。同じ攻略軍団とはいえ、パチマガではなくスロマガの軍団であるトニー…パチマガには基本的には関係のないはずであろう彼が、なんでこんなことをしているのだろうか。
「本当にこれトニーの字なの?」
「隣の席で書類を書くのをよく見てるけど、特徴的な字だなー、って思った記憶があるから。」
「本当に?」
理由を聞いても納得がいかず、なおも助六を疑う。
「うん、間違いないと思うよ。そんなに疑うんなら、電話するなりして確かめましょうよ。」
助六の言うとおりだ。ここでいろいろ考えていてもしょうがない。果たして犯人が素直に電話に出るのだろうか、という疑問をを持ちつつも、スマホを手に取る。
「出てくれますかね。」
…3コール…5コール。まだ出る気配はない。
「一応、会社の中も探してみましょうか。」
しかし、席を立つ助六の背中を追おうとした瞬間、コール音が止まり、街の喧騒とトニーの声が耳に流れ込んできた。
「……もし、もしもし? ジャイロさん?」
賑やかな周りの声に負けないよう、少しだけ声を張ったトニーの声は何故だか上機嫌な気がした。
「トニー? 今どこにいるの?」
「えっ、今ですか? 今は大阪で飲んでるところですよ。」
(大阪!?)
すぐさま室内に掲示されている「予定表」に目をやる。確かにトニーの欄のところには
『17:00〜 動画撮影 前ノリ(大阪)』
と書かれてあった。
(封筒を置いたのは…トニーじゃない!?)
「ご、ごめん。ちょっと聞きたいことがあったんだけど、解決しちゃったから大丈夫になっちゃった。」
少し支離滅裂な返答をしながら、助六に掲示板に目を向けるようアイコンタクトをする。少し驚いた顔をした後に、助六は申し訳なさそうに頭を下げた。
「そういうことなら別にいいんですけど…本当にいいんですか?」
「うん、大丈夫。」
「そうっすか…実はよくわからないんですけど、きょう会社を出るときに、ジャイロから電話がかかってくるかもしれないから、電話に出られるようにしておけって言われたんですよね。」
(!?)
封筒を置いたのはトニーではなかった。しかし、トニーがこの件に関わっているのは事実だった。
「誰に言われた?」
「で、たぶん誰がそう指示をしたかを聞いてくると思うから、聞かれてもそれには答えず、僕のノートパソコンを開けるように伝えろって言ってました。」
(やはりか…)
その指示に抗うこともできた。そんなことはいいから、誰に言われたか早く言え、と言えばいいだけの話だ。しかし、トニーの指示にまっすぐに従う。
そっと、パソコンを開けると予想通りの画面がそこにはあった。考え事をしているかのように、部屋の中をうろうろとしていた助六もパソコンの画面を食い入るように見つめる。
「ジャイロさんが機種名を伝えてくるはずだから、それが合っていたら誰が指示しているか言っていいよっていう話らしいですね。実はパソコンの画面に何が書いてあるか僕はわかんないんですけど…ちなみに、
全角カナで答えてほしいとのことです。」
「正解すればそいつがわかるのか!?」
「そうみたいですけど…興奮してどうしたんですか?」
真犯人が分かるかもしれない、というトニーの声にいつの間にか大声になっていたようだ。
「ごめん、ごめん。じゃあ、ちょっと考える時間が必要だから、またかけ直すよ。」
いったん電話を切って、状況を一通り助六に伝え直す。
「じゃあ、早く答えを見つけなくちゃいけませんね。トニーさん酔っぱらっちゃったら電話でなくなるかもしれないしな…。」
まだ酔った様子は見せなかったが、そういうことならより早く答えを伝えなきゃいけない。助六と一緒に、改めてディスプレイに映る謎の記号に目をやった。