オノル
【特別編】誰かさんのお祭り
誰かさんのお祭り
今から20年ほど前のお話。当時のホールに、僕が今でも好きなパチスロの筆頭に挙げる「ビーマックス(4号機)」という機種が設置されていた。5号機でもリメイク機が登場したので知っている方も多いかもしれないが、その初代にあたる機種だ。
「ビーマックス」。名機クランキーコンドルを彷彿とさせるリーチ目法則と、ビタ押しを駆使すれば1回のBIGで約600枚ものコインを獲得できるというゲーム性で、当時のプレイヤーを燃え上がらせたマシン。そしてこの機種の設定6のPAYOUTは、何と約130%もあった。
話を戻そう。そんな時代のある日、僕が地元世田谷のホールを下見していると、自由が丘のP店にて驚くような内容のイベント告知を目にした。
『明日より2週間、BIG1回でスタンプ1個。30個貯めればお好きな機種を設定6に打ち変えます(お一人様何回でもOK)』
スタンプを貯める機種に条件はなく、しかも達成後は好きな機種を日付指定で予約可能。つまり、ホールに設置されているどの台でもいいから、期間内にBIGを30回引けば、それだけで好きな機種の設定6を朝イチから閉店まで確実に打つことができるというワケ。話の流れから予想は付くと思うが、P店にはビーマックスが設置されていた。こんなチャンスは滅多にない…そう感じた僕は、信頼できる友達数名を誘い、イベントに参加することにした。
皆で相談した結果、効率良くスタンプを貯めるために「ドクターA7(山佐の7ライン機・設定1でBIG確率202分の1)」と「マックスボンバー(サミーの8ライン機・設定1でBIG確率178分の1)」を狙うことにした。この2機種であれば、1日でスタンプを貯めることも可能。上手くいけば数日で2周目、3周目すら狙えると考えたのだ。
結果的に1周目は予想どおり2日で全員がスタンプ30個に成功。全員で同じ日にビーマックスの予約を完了させると、一同は大興奮。「当日はお祭りになるね!」と大はしゃぎ。あのボルテージの上がった感覚は今でも忘れられない。
しかし、良いことばかりではなかった。このイベントの噂を聞きつけたライバルが急増し、思わぬアクシデントが発生。予想するよりも遥かに早いペースで貯まるスタンプに焦ったホールが、各機種に締め切りを設けだしてしまったのだ。
僕は何とか2回目のビーマックスの予約をすることができたのだが、他の仲間たちは締め切りに間に合わず、残念な結果となってしまった。程なくして、スタンプ獲得期間は終了となった。
1回目のお祭り当日。気の合う友達4人と並んで打つ最高設定のビーマックスは、とにかく面白かった。皆で出目に一喜一憂し、ボーナス中の目押しを楽しむ。そして頭上に重なるドル箱の山・山・山! 閉店時の獲得枚数は皆8000枚を優に超え、僕もノーマルタイプ最高獲得枚数タイとなる9605枚を流す。
この1日が如何に楽しかったか、容易に想像してもらえるだろう。大好きな機種の設定6を4人並んで打てる機会など、後にも先にもこれ1回のみ。しかも全員が大勝利を味わえたという最高の展開でフィニッシュ。これぞ僕のパチスロ人生最高の1日と言って間違いないだろう。
ところで、話には続きがある。そう僕にはもう1回お祭りの権利があるのだ。
迎えた2回目のお祭り。僕に用意された台はシマの角台だった(機種を予約できたが、台番はホールが指定)。パチスロのシマは2階にあり、僕の席は、階段を上がってすぐの一番目立つ場所。なるほど、たくさん出してアピールしてくれってことか。そう受け止めた僕は、用意したおいたパンと栄養ドリンクを流し込み、トイレ休憩すらとらないつもりでブン回し体勢に入った。
すると、その気持ちが台に伝わったのか、14時を回る頃には5000枚近いコインを獲得。絶好調を絵に描いたような展開に、思わず顔もほころぶ。数日前の夢のようなひと時がまた訪れつつあった。しかし、そんなときに事件は起こったのだ。
誰にでも関わりたくない面倒くさい知り合いがいるものだろう。そんな人が、ホールの階段を一段、また一段、と登ってくるのが視界に入ったのだ。
T先輩である。
T先輩は中学校の先輩で、地元でもやんちゃなことで有名。中途半端だがボクシングを習っていたため、ケンカの腕は達者。暴走族やチーマーなどと関わりもある…など、日常でも出来る限り関わりたくないタイプ。もちろん5000枚近いコインを持っている今日など、絶対に関わりたくないのである。しかし、もう先輩は目の前に迫っているのだ。
だが、運良く一瞬僕の方が早く気が付いた。当時僕はニット帽を愛用していたので、とっさにそれを深めに被る。風邪対策で用意していたマスクも役立った。これでまず見つかることはないだろう。もし見つかれば、せっかくのお祭りが中止になることはまず間違いない。あとは台風が過ぎるのを静かに待てばいい。バレるハズはないのだ。
しかし、何故かこの手の人間のセンサーは、僕に鋭く反応する。先輩は2階に上がるや否や、満面の笑みでこちらに近寄ってきた。そして僕の顔を確認する間もなく肩に手を回し「小野ちゃん、みぃいつけた!」とニヤニヤ話しかけてきたのであった。
人違いなど恐れない先輩の度胸も去ることながら、僕はこの場をどうやり過ごすかを必死で考える。だが、一階のパチンコで大負けしたというT先輩に何1つ話は通じない。「今晩は小野ちゃんの奢りでお祭りだな! 駅前のやる気茶屋(居酒屋)にダチ呼んどくから適当なところで来いよ!」「逃げるなよ?」と残し、台風は去っていった。その瞬間、僕のお祭りはT先輩のお祭りと化した。
その後僕は友達と交代し、先輩の祭りに参加。全くやる気のない僕が、やる気茶屋で飲むという、本当に笑えない時間を過ごすことになるのだった。
深夜ヘロヘロに酔っぱらい帰されたところに友達からメールが届き「9000枚ほど出た」という報告を受けたが、正直そんなことそのときはどうでも良くなっていた。
最愛のビーマックスの最高設定を打てるというチャンスを、予想だにしない展開で手放した悔しさは今でも忘れない。そう、僕にとってパチスロ人生最高の1日と、このパチスロ人生最悪の1日は必ずセットで思い出す話になってしまっているのである。
余談だが、やる気茶屋へ行く少し前、T先輩から「早く来い」との催促の電話があり、時間を稼ごうと言い訳したときに聞いた「お前がこっちに来るのと、俺がそっちに行くの、どっちがいいんだ? あぁん?」という言葉は、僕の名言リストに今も残っている。言葉の意味は良く分からないが、とにかくメチャクチャ恐怖を感じたフレーズである。
(オノル)